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Susanna & the Magical Orchestra スサンナ & ザ・マジカル・オーケストラ
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■第一作目のCD "List of Lights and Buoys" について

2004年Rune Grammofon よりリリース

・クレジット
Susanna Karolina Wallumrod (vocals)
Morten Qvenild (keyboards, harmonium, autoharp)
Andreas Mjos (vibraphone, guitar, timpani)

Produced by Andreas Mjos and Deathprod


2001年の後半のいつだったか、ノルウェー国内のどこかのジャズフェスティバルのプログラムで Susanna Wallumrod & Morten Qvenild duo というプログラムを見つけた。ピアニストの Morten Qvenild は当時 Jaga Jazzist のメンバーで、Shining や Ra といった若いグループで既に目立った演奏をしていたからふと目にとまったのだけれど、そのもう1人のシンガーのファミリーネームはもっと気になった。添えられていた写真では Morten Qvenidl は普通だったけれど、Susanna Wallumrod のほうはパーカーのフードをすっぽり被ってその上サングラスで何の手がかりにもならない。プログラムの解説を読むとやっぱり Susanna はピアニスト Christian の妹で、このデュオは古くは Radka Toneff × Steve Dobrogosz 、最近では Sidsel Endresen × Bugge Wesseltoft を彷彿とさせるような…と続いて、それ以来、コンスタントに活動を続ける彼らは、音も声も聴いたことがないのにずっと気になっていた。

2004年になってやっとデビューアルバム "List Of Lights And Buoys" がリリースされた。手にとってびっくりしたのは音よりまずその Rune Grammofon らしからぬジャケットだったのだけれど、それはさておき…アルバムは2曲のカバー曲から始まる。1曲目は "Who Am I"。知られているのは Nina Simone のバージョンだろうか。ドリーミーなボーカルとサウンド。このデュオはごく最近になって "Susanna And The Magical Orchestra" という名前になり、ちょうどその名前にぴったりな曲。

2曲目の "Jolene" は、このアルバムのハイライトになる1曲で、元はカントリー歌手 Dolly Parton の曲。Olivia Newton-John のバージョンもある。6歳の時にこの曲を初めて聴いたという Susanna Wallumrod のバージョンは原曲からかけ離れていて驚かされる。別の曲かと思ったけれど歌詞は全く同じだから間違いないようだ。元はジャラジャラとギターが鳴るアップテンポなカントリーの曲、こちらのバージョンはポロンポロンと叩かれるピアノの音とともに、痛々しいまでに切々と Jolene という魅力的な女性に向かって大切な彼を取らないでと歌う。

このユニットの中心は Susanna Wallumrod のボーカル。とても上手いシンガーかといえば、そうではないかもしれない。時折とても「素」な声になり、少し高い声は繊細で、壊れてしまいそうな危うさもある。終始静かに、落ち着いた24歳の等身大の歌を歌う。それでも、彼女は歌に魂を込められるシンガーで、その声は聴き手を引き込む力を持っている。また、このアルバムでも何曲かの作曲を手がけていて、それらの曲はシンプルなメロディーを持つ静かなポップソングで、彼女自身もジャズシンガーではなくシンガーソングライターといった感じだ。

徹底して脇役にまわるパートナー Morten Qvenild は、Susanna Wallumrod と同じ Kongsberg の出身。音数を減らしたそのミニマルな演奏は、歌伴というより "magical orchestra" で、控えめながら彼のセンスを十分に感じさせる。

けれど、このユニットを "magical" にしているのはプロデュースを担当している Andreas Mjos だ。Jaga Jazzist の10人の中で異彩を放つヴィブラフォン奏者。オスロの芸大の学生でもあり、通常美術系であるこの芸大で音楽をやっていた数少ない先輩がトロンハイムの芸大にいた Helge Sten で、大きなインスピレーションを受けたそうだ。彼のセンスは Jaga のようで Jaga とは異なる彼のユニット Rotoscope のアルバムで聴くことができる。

このアルバムではその Helge Sten のサポートで見事な手腕を発揮している。エレクトロニカ的チリチリいう音、遠くで鳴っているかのように丸みを帯びてにじむピアノの音、そのピアノの音も曲によって微妙に色合いに変化が付けられている。時折キラキラと光って消える不思議な音たちも効果的だ。元がシンプルなポップソングばかりなので、プロデュースによっていくらでも変わってしまうだろうこのユニットの音を、現代的な、それでいて人間の温かみのある、現実的でドリーミーな不思議な魅力に満ちた音にしている。

"List Of Lights And Buoys" - 海上での目印と思われる単語を並べたアルバムタイトル。若い2人のデュオユニットによるこのデビューアルバムでは、先に引用された2組の先輩達の流れを引き継ぎながら、既に個性を確立させている。静かに航海に出た彼らが、時間が経ったときにどこへたどり着くのか、それもまた楽しみになるようなデビューアルバムだ (矢部)。