Terje Isungset (テリエ・イースングセット) 公演
ノルウェーのパーカッション・プレイヤー テリエ・イースングセットが鈴木理恵子・中村仁美・巻上公一 を迎えて行うスーパー・セッション。シャーマンがかったテリエ
に誘われ一体飛び出すのは夢か幻か、はたまた超現実か!
鈴木理恵子 ヴァイオリン
中村仁美 篳篥
巻上公一 ヴォイス、テルミン、口琴
*巻上公一による鈴木理恵子・中村仁美の紹介
鈴木理恵子さんと知りあったのは、1996年の北九州音楽祭だったと思う。ニュージーランドの作曲家ジャック・ボディが、雲南省の4枚弁口琴の伝統音楽を採譜して弦楽四重奏にした作品に参加していたのではないだろうか。
バイオリンのフラジオレットを多用したその曲は、殊のほか美しく忘れられなかった。ぼくは高橋悠治の「狐」という作品でほら貝を吹くのに参加。
鈴木さんは、ぼくのことをずっとほら貝吹きと思っていたらしい。
その後、鈴木さんのリサイタルのゲストで呼んでいただき、ホーメイとバイオリンのデュエットの作品を作ったり、コブラに出てもらったり、高橋悠治の代役で朗読を受け持ったりと、交流を重ねてきた。
彼女はスウェーデンのマルメ市立歌劇場のコンサートマスターをつとめていたこともあり、北欧からやってくるシャーマニックなパーカッショニストとの共演の話に、「是非」と即答した。
以下は、ビクターから発売された鈴木理恵子(ヴァイオリン)と高橋悠治(ピアノ)のアルバム『from the orient』用に書いた文章である。
アジアの中心は移動する。
シベリアの南トゥバ共和国にはじめて訪れた時、そこにアジアの中心の塔というオベリスクがあることを知った。奇特なイギリス人が計測の末、こここそがアジアの真ん中だと言ったのだそうだ。その後、探検が進むうちにその塔は移動していったらしく、現在は首都クィズィルのエニセイ川沿いにある。アジアというと南方を意識しがちだが、北方のロシアの一部もまたアジアだと知った時、わたしの視界は大きく広がった。
このアルバムは、モンゴルのオルティンドー、韓国の童歌、ブルネイの古謡から、日本、韓国、中国の作曲家の作品を集めたもので、そのヴァイオリンの端正さと知性で、さながらアジアの中心のゆるやかな移動を味わえる。聴くものは、アジアの探検家となり、この音楽によってアジアの中心は地理のみにあらず、その心にあると知ることだろう。そしてその目もくらむような広大さ。
一曲だけ、ニュージーランドの作曲家ジャック・ボディの作品があるが、彼もまたアジアの音をトランスクリプトする作曲家であるし、風が音を紡ぐエオリアン・ハープそのものをほとんど倍音(フラジオレット)のみで構成していて、美しい。
鈴木理恵子のヴァイオリンがまるで馬頭琴のように歌った瞬間、高橋悠治はその指を花架拳の掌法でひらりとピアノに落とす。美しい額に知性をしたためて、アジアに関しては紹介者としても深い関わりを続けてきた高橋悠治とともに、鈴木理恵子は素敵なアルバムを完成させたものだ。
巻上公一
中村仁美さんが参加している伶楽舎は、ブライアン・イーノがプロデュースしたこともある雅楽グループで、雅楽の源流から現代曲まで演奏する。はじめて会ったのがいつだったか、もしかしたらジョン・ゾーンのコブラに誘ったのが最初かもしれない。
雅楽の伝統楽器である篳篥のみならず、トルコのネイなども演奏するし、その長い息の演奏にも関わらず当意即妙なセンスを持っていて、コブラには何回も参加してもらっている。
今回もちょっとした思いつきで、テリエさんが持っている北欧のいにしえのムードに合わせてみたいと思ったのだ。
それに一昨年は、偶然ノルウェイのウルティマ音楽祭で会った。その時、ノルウェイの葦で作る倍音フルート(セリエフルート)に興味を持って、手に入れてきたことを、ぼくは知っているのだ。
■鈴木理恵子
桐朋学園大学卒業後、23歳で新日本フィルハーモニー交響楽団副コンサートミストレスに就任。在学中は篠崎功子氏に師事。インディアナ大学で名教授J.ギンゴールド氏に師事。夏季セミナーなどで、H.シェリング、N.ミルシタインの各氏に師事。帰国後は、全国各地でのリサイタルをはじめ、ソリストとして主要オーケストラと共演、また、霧島、倉敷、北九州響フェスティバル、木曽福島音楽祭等に出演。これまでにゲスト・アーティストとしてフランス、ニース音楽祭、アメリカ・アンカレッジフェスティバル等に招かれ、J.J.カントロフ、J.ルヴィエ、A.マリオン等世界のトップアーティストと共演、1997年からはソロを中心に活動している。既成概念にとらわれず、邦楽器との共演や映画のサウンドトラックへの参加など、他分野の芸術家とのコラボレーションも積極的に行っており、ヴァイオリンという楽器の新境地を拓くその活動は各方面から注目を集めている。現在、ソリスト、室内楽奏者として、また読売日本交響楽団の客員コンサートマスターとしても活躍している。
■ 中村仁美
雅楽演奏家。雅楽古典曲を演奏するほか、篳篥(ひちりき)で現代作品の演奏に携わる機会も多く、和洋さまざまなジャンルの音楽家やオーケストラ、舞踏家らと共演している。「伶楽舎」メンバーとして八ヶ岳音楽祭('94)、PMF札幌('97)、タングルウッド音楽祭('96)、ウルティマ現代音楽祭('97、'00、'05)、ミュージック・フロム・ジャパン音楽祭('04)などに参加。'02年には「アンサンブル晴奈(はれな)」リーダーとしてのMFJ主催「現代に甦る雅楽」USAカナダツアーを行った。1992年〜97年に篳篥リサイタル「葦の声」、2003年からはリサイタルシリーズ「葦の風」を企画し、篳篥のソロ曲、笙・琵琶・箏・ハープ・ピアノ・パーカッションとのテュオ曲などを多数委嘱初演。06年に「ひちりき萬華鏡」をリリース。生命力あふれる篳篥の音色を生かし、その未開拓な可能性を探求している。
■巻上公一
歌、即興演奏、作詞作曲、演出、俳優、プロデュース、超歌唱家
現代的ヴォーカリストとして、ヴォイス(非言語的声帯術)を使った即興演奏、トゥバ共和国の喉歌ホーメイの研究と歌唱、テルミンと声のシンクロ、口琴との融合など独自のシーンを作り上げ、リードしてきた。・1979年にテクノポップバンドとして認知され、その後、即興とソングが共存する方法論で独自の活動を今なお続けるバンド、ヒカシューのリーダーとして作詞、作曲をてがける。・国内外のアーティストとの共演も多く、高橋悠治、三宅榛名、梅津和時、大友良英、デレク・ベイリー、ジョン・ゾーン、ローレン・ニュートン、カール・ストーン、デイヴィッド・モス、イクエ・モリ、フレッド・フリス、トム・コラ、ジョン・ローズ、フィル・ミントン、ヤープ・ブロンク、メレディス・モンクなどと演奏や録音を行ってきた。
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