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David Cross Band
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◆ David Cross Band@アサヒ・アートスクエア(23/Apr/2005)…圧巻のパフォーマンス


公演をご覧になったファンの方より許可をいただき、レヴューを転載させていただきます。
オリジナルサイト: Winter Wonderland (レヴュー)


完全に圧倒されました。元 King Crimson のヴァイオリニスト、David Cross の来日公演。招聘元の Office Ohsawa さんからノルウェーの Silje 来日を知らせるメールをもらったのがきっかけで、初めて David Cross Band が来日することを知ったわけですが、まさかこれほどとは思わなかった。

そもそも、David Cross という存在が、自分にとっては半ば伝説的なものであったわけです。『太陽と戦慄』、『スターレス・アンド・バイブル・ブラック』、『レッド』 の3枚はそれこそ擦り切れるほど聴きましたし、その中で「ヴァイオリン」という、いささかロックバンドには不似合いな楽器の演奏者として特異な存在感を放っていた彼には、自分なりに非常に関心を持ち続けてきました。

21世紀になった今ごろになって、まさかこうして本人のコンサートを観る機会が訪れるとは思っていなかった。David Cross 本人がヴァイオリンでキング・クリムゾンの楽曲を弾くのを目の当たりにできるなんて。しかし、彼は決して「過去の栄光」を引きずるアーティストではありませんでした。特に印象的だったのは、「バンド」形態にこだわっていたこと、そしてあくまで現在進行形のロックを演奏しようとしていたことです。

昨年ソロ来日しているんですね。その時はインプロヴィゼーション的なライヴだったようですが、今回は敢えて「David Cross Band」と銘打って、バンドとしてのこだわりを見せた。それがサウンドにもしっかりと現れていたライヴだと思いました。若手中心に5人のメンバーを揃え、彼らと一体になって演奏することの喜び、楽しさがひしひしと伝わってくるステージ。

選曲が後ろ向きなばかりでないのも好感が持てました。新作 "CLOSER THAN SKIN" には並々ならぬ自信を持っているようで、このアルバムから演奏される新曲を演奏する時の David の真剣さといったら、ちょっと近寄り難いほどです。かなりアグレッシヴでテンポの速いヘヴィな楽曲が多いのですが、自分の持つ David Cross のイメージとはかなり違っていたので驚きました。

傾向としては Dream Theater 以降のプログレッシヴ・メタル的なサウンドに近いかな? DTほど鍵盤が自己主張しておらず、その分 David のエレクトリック・ヴァイオリンがリフにソロに大活躍しています。特筆すべきはドラマーの Joe Crabtree でしょう。オーディションで8分の13拍子でDavid とジャムするように言われ、大喜びで応じたという変拍子叩きなだけあって、複雑怪奇なリズムパートを猛烈な音圧で叩きまくる。シンバルワークも含め、荒削りながらも大した原石だなと思わせました。

この手のバンドのヴォーカリストは大抵見掛け倒しであることが多いので、正直あまり期待していなかったのですが、ダブリン生まれの Arch Stanton というこの人にはちょっと驚きました。James LaBrie ばりの伸びと声量を持ちつつ、複雑なリズムにも上手く乗り、古いクリムゾン・ナンバーもかなり期待通りに歌いこなします。インスト・パートでやや手持ちぶさたそうにしていたのが可哀想なくらいでした。

もちろん、多くのファンが期待するキング・クリムゾン楽曲も演奏します。最初に登場したのは "Exiles"。しかしこれはかなりモダンなスタイルに再アレンジされていましたね。それにしても David Cross が振りかざす弓が弦に触れ、哀愁たっぷりの「あの」フレーズを奏で始めるともうダメ、ギヴアップ。真っ赤なシャツを着た大きな体格の彼が、かくも繊細なメロディを紡ぎ出すのかとしばし陶酔。

曲が終わると大きな拍手を受けますが、ベーシストだけはそのまま "The Talking Drum" のミニマルなリフを刻み始めます。その間、David はにこやかにメンバー紹介。「忘れっぽくなっちゃったんで…」と言い訳してポケットから紙を取り出すと、時折目を落としながら各メンバーにまつわるエピソードを語ります。

ひと通り終わったところで全メンバーが楽器を構え、ベーシストに合わせる形で "The Talking Drum" に雪崩れ込む。実は僕はこの曲がどういうわけか大好きで、『詐欺師箱』や各種ブートから寄せ集めたテイクをつなぎ合わせて、ずーっと連続で聴けるテープを作ったこともあるくらい。1995年の King Crimson ロンドン公演で「生」を体験していますが、そこには Fripp と Bruford はいたもののヴァイオリンはなかった。その意味で不完全なテイクだったと思うのです。

この曲の主役は間違いなくヴァイオリンです。不穏な弦の響きが中心にあって、その周りにミニマルでアフリカ的なリズムセクションやギターリフが構築されている。浮遊するヴァイオリンが次第に加速しながら緊張感を形にしていく様は、鬼気迫る Cross の表情とも相俟って、本当に不安をかき立てられるものでした。もうこれ以上はない、という臨界点に達したところで終わるアレンジは、David Cross 本人の中では「あるべき姿」なのかもしれませんが、個人的にはやはり『太陽と戦慄 パート2』にメドレーで続いてほしかったかなー。

コンサート本編ラストは「この曲は私が King Crimson を去った後の曲になるけれど…」と紹介された "Starless"。確かにアルバム "RED" の時点では既に正式メンバーでなくなっていた Cross ですが、"Starless" の作曲クレジットにははっきりと彼の名が残っているように、これもまた明らかに David Cross の哀愁センス満開の楽曲です。

というのも、オリジナルでは Robert Fripp のギターが弾き、昨年の 21st Century Schizoid Band では Mel Collins のソプラノサックスが吹いていたメインリフを、ここでは David Cross のヴァイオリンが奏でていたから。このフレーズは David がオリジナルだったのかもしれないなあ、そう思って聴くと非常に納得できてしまうから不思議です。

昨年は 21st Century Schizoid Band の他に John Wetton Band でも聴くことができた「生スターレス」ですが、さすがに当時関わった本人たちの演奏だけあってどれも甲乙つけ難い出来。しかし中でも David Cross Band のそれは、若いメンバーたちのスピード感が活かされた、非常にみずみずしい演奏であったと思います。後半の空前絶後のインストパートで、ギターとユニゾンで高速フレーズを弾きまくる David Cross の自信に満ちた表情といったら!

アンコールに応えて登場した Cross は「今のバンドには僕自身本当にエキサイトしているので、できればもっと "CLOSER THAN SKIN" の曲を紹介したいのだけれど…」と語りつつ、お客さんが期待している King Crimson ナンバーを続けることを知らせます。そう、"Lark's Tongues In AspicPart2"!

これも95年に生で観ているとはいえ、明らかに別物と言わざるを得ないでしょう。ヴァイオリンなしの『太陽と戦慄』なんてあり得ない。小さな会場でしたが、お客さんのほぼ全員が複雑なリズムを身体で刻んでいるのが何とも微笑ましい。それくらいに僕らはこの作品を聴き込んできたのです。リリースから30年以上を経たとは思えない受け容れられぶり。もはやある種の古典/クラシックと言ってもいいのではないか。

リフも然ることながら、当然アレですよ、終盤に出てくる驚異的なソロ・パート。神妙に構えたヴァイオリンから飛び出してきた弦をこするような不穏なフレーズは、まさにアルバムで聴き倒してきたとおりのものでした。ほとんど即興演奏だったのかと思いきや、意外にもライヴではきちんと再現していきます。ラストに向かってぐんぐん高音に駆け上っていくあの展開が、まさに目の前で再現される! 終始にこやかだった David が、まさに「鬼」になった瞬間でした。

これに比べると、アンコール2曲目の "21st Century Schizoid Man" はもう少しのどかな雰囲気だったかも。Cross 自身が作曲に関わっていないこともあり、あくまでも「クリムゾンの代表曲」として取り上げたという感じ。中盤のインストパートもややディスコ風にアレンジされていた印象で、キメのフレーズこそ決まってはいましたが、あくまでこの曲を弾きまくる David Cross のヴァイオリンを楽しむべきお約束の大団円なのでした。

というわけで、圧巻の1時間40分。個人的にはかなり満足度の高いライヴになりました。プロモーターのお方には非常に感謝しています。これで、黄金期のメンバーでまだ観ていないのは Jamie Muir だけということになってしまったわけですが、果たして夢が叶う日は来るのでしょうか…。